彼女は実は男で溺愛で


「好きになるのは、男性ですか? 女性ですか?」

「え」

 目を見開いた悠里さんは、口元に手を当て、ハハハッと楽しそうに笑う。

「さあ。どうかしらね」

「聞いてはダメでしたか?」

「ふふ。それは内緒。でも、そうね。気になる人は、いるかな」

 そう言った悠里さんの横顔は、まさに恋する乙女の顔。

 まだ染谷さんが誰か知らないときは、染谷さんに想いを寄せているのだと勝手に思っていた。
 けれど、染谷さんの話を出した時の、悠里さんの照れた感じは自分を褒められたせいだったのだ。

 そうなると、思い当たる人物は一人しかいない。
 経営管理本部の本部長、西園龍臣。

 悠里さんは「彼に、憧れに似た気持ちは抱いているんだけどね」と言っていた。
 それなのに「彼は私が気に入らないのよ」とも言っていて。

 憂いに帯びた眼差しを思い出し、胸が苦しくなる。

 もちろん、私の全然知らない人に想いを寄せているかもしれない。
 まだ見ぬ素敵な人が悠里さんの想い人で、悠里さんを笑顔にしてくれますように。

 そんなことを願った。
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