彼女は実は男で溺愛で

 分からない用語はメモを取り、後で調べようと書き溜める。

 難しい話し合いを辛抱強く聞いていると、報告はほぼ終わりのようだ。
 打ち合わせの予定時間まで、残りあと少し。

 この後の議事録作成について考えていると、突然自分に、火の粉が降りかかるような事態に陥った。

「そういえば。総務課の社員が、販売促進課の仕事に駆り出されているようだが」

 龍臣さんの一言と、彼の視線が私に向かったせいで、一斉にみんなの注目を浴びる。

 他の部署の社員が多く出席している会議で、突然意見を求められ言葉に窮する。

 この件については、私の隣に座っている課長が答えてくれた。

「販売促進課の染谷くんのアシスタントが、体調を崩して予定よりも早く産休に入ってしまったようでして。ちょうど来客者名簿を総務で取りまとめていましたから、その流れで手伝ってもらっています」

 滞りない報告に、さすが課長! と、心の中で感謝する。
 私だけでは、口籠って正しく報告ができるとは思えない。

 鋭い眼差しを見ただけで、怖ろしい。

「そう。必要なら異動も考えよう」

「はい。その点は販売促進課の課長とも、相談していきます」

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