彼女は実は男で溺愛で
会議室の片付けをしていると、男性が歩み寄ってきて「お疲れ様」と声をかけられた。
ドキリとして、思わず社員証を確認する。
『財産経理部 経理課:佐竹蒼生』
名字が西園ではなくて、なんとなく胸を撫で下ろす。
今は、西園という名字に拒否感があった。
すると、声をかけてきた男性は苦笑した。
「名前を見られて、ホッとした顔をされたのは初めてだよ」
優しい顔つきの佐竹さんは、会議室の片付けを手伝ってくれながら、懐かしむように話す。
「俺、龍臣と染谷と同期で」
「えっ、染谷さんと龍臣さん、同期なんですか!?」
「そこに食いつく?」
「あ、すみません」
佐竹さんそっちのけで、染谷さんと龍臣さんの間柄に興味を持ってしまった。
「うそうそ。いいよ。2人は入社当時から有名だったからね。圧倒的な存在感の龍臣に、穏やかでも人目を惹く染谷。対照的で」
やっぱり染谷さんは、只者ではないんだ。
自分の知っている彼のイメージに遠くない情報は、彼を遠い存在に思わせる。