彼女は実は男で溺愛で

 黙っている私に佐竹さんは続ける。

「どうしてか、俺も含めて3人で仲良くしてて。新人の頃は、3人で飲みに行ったり」

 これには驚いた。
 仲がいい頃があったのだ。
 染谷さんと龍臣さんは。

 悠里さんの言っていた「彼は私が気に入らないのよ」という意見とは、天と地ほどの差がある。

 混乱する私に反し、佐竹さんは同期の懐かしい思いから、私に話しかけたようだった。

「さっきの発言を聞いて、龍臣も染谷を気に留めているのかなって思ったよ。普段のあいつなら、一社員の動向なんて気にしないからね」

「そう、だったんですね」

 私の働き方に話が及んだ時に、周りがざわついた理由がわかった。

 けれど、どうして。

 私の疑問に答えるように、佐竹さんはこう締め括った。

「龍臣は西園だからね。入社時と今とでは、俺たちと立場が変わってしまった。それでも、心の中では同期を大切に思っているんだと思うよ」

 そう、なのかな。
 龍臣さんの私へ向ける眼差しは、そんな風に温かいものではなかったように思う。
 それは、話す相手が染谷さんではなく、私だからだろうか。
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