彼女は実は男で溺愛で

 1階の会議室のようなところに入り、悠里さんは鍵を閉めた。
 カチャリという冷たい金属音に、体を揺らす。

「怯えないで。万が一、あいつが入って来ないように、念の為だから」

 あいつ。

 悠里さんに似合わない乱暴な呼称が、まざまざと先ほどの光景を蘇らせる。

「あ、の。悠里さんは大丈夫ですか。私のせいで、変な場面に遭遇させてしまって」

 目を丸くした悠里さんは、表情を和らげ目を細めて言う。

「もう。こんな時まで、私の心配しなくていいのよ」

「だって、襲われ……」

「大丈夫だから。なにか買ってくるわ。カフェラテでも飲めば落ち着くかも」

「やっ。行かないで、ください」

 思わず悠里さんの服をつかむ。
 その手はカタカタと震えていた。

「大丈夫? 私が傍にいて」

「お願い。ひとりにしないで、ください」

 控えめに私へ差し出された手に、縋り付くように私から悠里さんの胸に体を預けた。

 柔らかで温かい。
 エレガントで女性らしい香り。
 彼女の胸に、擦り付けるように顔を埋めた。
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