彼女は実は男で溺愛で
村岡さんは、相変わらず先に席に戻っていく。
それでもいい関係が築けているような気がしていた。
柚羽と連れ立ってお手洗いに行き、化粧直しをする。
今まで、それほど化粧に拘ってこなかったけれど、今は鏡を見るのが楽しい。
「今日の服装も可愛い」
「え」
「私服もいいね。化粧も」
柚羽が言う声に、被せるように声が重なる。
「さもしいのよね」
「本当」
近くの鏡で同じく化粧直しをしていた女性社員が、私たちにも聞こえるように言った。
『さもしい』って、あんまりいい言葉じゃないような。
話しているのは総務課の派手なグループの人たちだ。
前にモデルの話かなにかで、男性社員に呼び出されていた志賀さんもいる。
関わらないようにしようと、柚羽と顔を見合わせ、化粧品を片付ける。