彼女は実は男で溺愛で

 村岡さんは、相変わらず先に席に戻っていく。
 それでもいい関係が築けているような気がしていた。

 柚羽と連れ立ってお手洗いに行き、化粧直しをする。
 今まで、それほど化粧に拘ってこなかったけれど、今は鏡を見るのが楽しい。

「今日の服装も可愛い」

「え」

「私服もいいね。化粧も」

 柚羽が言う声に、被せるように声が重なる。

「さもしいのよね」

「本当」

 近くの鏡で同じく化粧直しをしていた女性社員が、私たちにも聞こえるように言った。
『さもしい』って、あんまりいい言葉じゃないような。

 話しているのは総務課の派手なグループの人たちだ。
 前にモデルの話かなにかで、男性社員に呼び出されていた志賀さんもいる。

 関わらないようにしようと、柚羽と顔を見合わせ、化粧品を片付ける。

< 135 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop