彼女は実は男で溺愛で

「彼の視界に入ろうと必死よね」

「経営管理本部の会議にまで出ちゃって」

 経営管理本部の会議。
 これは私が出席した会議だ。

「私服着たくらいで可愛いだなんて、おめでたいもいいところ」

 アハハと、嫌な笑い声がして、耳を塞ぎたくなる。

「ちょっと! もしかしてあなたたちじゃないの? 史乃の制服、切ったの!」

 すごい剣幕で凄む柚羽に、目を丸くし「柚羽、いいから」と言っても遅かった。

 向こうも怖ろしい顔をさせ、こちらを睨んでいる。

「なによ。言いがかりでしょ」

「そうそう。『庶民で、つまらない者です』って分かっているじゃないの」

「ハハッ。化粧直したところで『誰も気に留めない』わよ」

 私はカッと熱くなり、顔を俯かせた。

 ロッカーに貼った紙に書いた内容を、なぞるようにからかわれ、悲しくなる。
 彼女たちには、なにを言ったって伝わらないのだ。

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