彼女は実は男で溺愛で
「言いがかりはそっちだわ! 西園龍臣がなによ。こっちはあんな人、少しも素敵だなんて思わないんだから!」
柚羽の切った啖呵に、志賀さんから蔑んだ眼差しを向けられた。
「誰の会社で、働いていると思っているのかしら。お灸を据えてもらえるように、彼にお願いした方がいいみたいね」
『彼』に『お願い』できる立場にいるのだろうか。
龍臣さんの怖ろしい姿が思い浮かんで、ゾッとする。
フンッと漫画に出てくるような態度で、彼女たちはお手洗いから出て行った。
私なんて、放っておいてくれればいいのに。
それに……。
「柚羽、危ないよ。彼女たちに突っかかるような真似して」
「だって絶対にあの人たちじゃない! 史乃の制服を切った犯人!」
柚羽は鼻息荒く訴える。
「もしもそうだとしても、ううん、もしそうだとしたら、柚羽も危ないよ。ちょっと彼と話しただけで、制服を切り刻むような人たちだよ?」
「大丈夫だよ。ロッカー使っていないし。それより、本当なんなの。あの人たち」
柚羽は、未だ腹の虫がおさまらないという感じで怒っている。
私は今後、柚羽に災難が降りかからなければいいけれど、と不安に思っていた。