彼女は実は男で溺愛で
交錯する想い
出社し席で仕事の準備をしていると、染谷さんが席まで来て「少しいいかな」と呼ばれた。
私は既に出社していた村岡さんに「席を外します」と伝え、染谷さんの後に続いた。
会議室に入ると、中には佐竹さんと柚羽がいて、柚羽は肩を震わせていた。
「私、ちゃんと保存して」
「うん。分かっているよ」
佐竹さんが穏やかに、柚羽を宥めている。
嫌な予感がして染谷さんを見上げると、彼は私に頷いてから、佐竹さんたちの近くの椅子に腰掛けた。
「実は昨日、市村さんから、一連の騒動について相談を受けたんだよ。佐竹と俺で早急に対策を講じようと、昨晩のうちに平林さんが作成していた資料全般のバックアップをした」
これには私が驚いた。
私と食事をし、別れた後に彼は会社に戻ったんだ。
佐竹さんも彼に賛同してくれて。
柚羽も目を丸くして、それから安堵の声を漏らす。
「では、私が昨日作成した重要書類も」
「保存されていると思うよ」
穏やかに告げる佐竹さんに、柚羽は「よかった。よかったです」と、繰り返した。