彼女は実は男で溺愛で

 和やかな雰囲気の中、染谷さんが厳しい顔つきで言った。

「急ごしらえだったけれど、平林さんの席を中心に防犯カメラもセットしたから犯人も分かる」

 ゴクリと喉を鳴らすと、染谷さんが表情を緩め優しく言った。

「平林さんも市村さんも、これに関わる人事があったとしても、心を痛める必要はないからね」

「そんなもの、自業自得です」

 柚羽がきつい口調で言うと、「ハハッ。平林さんを敵に回すと怖ろしいなあ」と、佐竹さんは戯けて言った。

「からかわないでください! 寿命が縮まる思いだったんですから!」

 良かった。本当に。

 そう思う反面、染谷さんの「これに関わる人事があったとしても、心を痛める必要はない」という言葉に、やるせなさを感じた。

 犯人が誰であろうと、処分は免れないのかな。
 柚羽が言うように自業自得だけれど。
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