彼女は実は男で溺愛で

「黒幕が龍臣というわけではないよ。あいつは、陰湿な行いをするような奴じゃない」

 染谷さんの発言はやっぱり彼と同期で、よく知っている間柄だと窺えた。

「志賀さんは、龍臣と深い関係を持つ機会があった。しかしすぐに飽きられ、自暴自棄になっていたようだ」

 深い、関係。

「褒められる行動ではないが、同情する面もある。だから、表向きは子会社に左遷になっても、向こうでの待遇はそれなりにいいはずだ」

「そう、ですか」

「安心した? それともガッカリした?」

 意地の悪い質問に、「ガッカリした方がよかったですか?」と、返す。

「いや。彼女は『西園』に人生を狂わされかけた。今後は穏やかに過ごしてほしい」

 遠くを見つめるように言う染谷さんの横顔は寂しそうで、悲しそうに見えた。
 今までも、狂わされた人を見てきたような、そんな気がした。
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