彼女は実は男で溺愛で

 柚羽は食べ終わったお弁当箱を片付けながら、珍しく恥ずかしそうに言い出した。

「私、好きな人できた、かも」

 柚羽のはにかんだ姿は可愛らしいのに、私は別のことが頭を過ぎる。

 どうしよう。染谷さんだったら。

 染谷さんに気持ちを告げられたって、柚羽に言った方がいいのかな。
 染谷さんの好きな人は自分で、それでも良かったらって?
 嫌味にもほどがある。

 私がひとり心の中で慌てていると、なにかを感じ取った柚羽が笑う。

「心配しないで。染谷さんじゃないから」

「え」

「染谷さんを好きなのは史乃でしょ?」

 これには言葉を詰まらせ、目を丸くする。

「いや、違っ」

「いいの、いいの。隠さなくたって。史乃を見ていれば分かるよ。染谷さんを見上げるときの表情とか。どんどん可愛くなっているのは、染谷さんに恋しているからでしょう?」

「それは」

 可愛くなっていると、褒めてくれるのは嬉しい。
 けれどそれは、悠里さんのアドバイスのお陰で。

 あれ、だから染谷さんのお陰で間違ってはいない?
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