彼女は実は男で溺愛で
「せめて電話には出てください」
「分かった」
彼はスーツの内ポケットに手を入れ、取り出した携帯を耳に当てた。
私は彼を視界に入れないように並んで立ち、電話が終わるのを待つ。
「はい。染谷です。ええ、はい。明日、出社して対応します」
明日は祝日だ。
休日出勤か、大変だな。
ぼんやりそんな感想を浮かべていると、「対応できるまで、連休も出社しますから」と、こんなところにいる場合ではないと思える内容を話している。
私は、電話を切った染谷さんに詰め寄った。
「早く戻らないと」
「平気だよ。今、戻ったところで、大差はないから」
「私の、せいではないですか」
電話口から「パンフレットが、店頭で」というような内容が、途切れ途切れ耳に入った。