彼女は実は男で溺愛で

 今度は、私の鞄の中にある携帯が鳴っている。

「史ちゃんも出たら。急ぎだといけない」

 画面を見ると母からだ。
 染谷さんに軽く頭を下げてから、通話ボタンを押した。

「どうしたの?」

「連休、いつからかなと思って」

「飛び石連休だから、後半の何日かは連休」

「そしたら後半は、帰ってくるの?」

 思わず染谷さんを仰ぎ見て、それから携帯をギュッと握りしめた。

「ごめん。仕事、忙しくて。今年は帰れそうにないよ」

 すぐ近くで息を飲んだ音を聞いても、その人を見られない。

「そう。残念ね。仕事、大変なのね。大丈夫?」

「うん。平気。また電話するから」

「そうね。分かったわ」

 電話を終えるとすぐ、染谷さんが「いいの? お母さんでしょう」と、気遣う声をかけた。

< 179 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop