彼女は実は男で溺愛で
今度は、私の鞄の中にある携帯が鳴っている。
「史ちゃんも出たら。急ぎだといけない」
画面を見ると母からだ。
染谷さんに軽く頭を下げてから、通話ボタンを押した。
「どうしたの?」
「連休、いつからかなと思って」
「飛び石連休だから、後半の何日かは連休」
「そしたら後半は、帰ってくるの?」
思わず染谷さんを仰ぎ見て、それから携帯をギュッと握りしめた。
「ごめん。仕事、忙しくて。今年は帰れそうにないよ」
すぐ近くで息を飲んだ音を聞いても、その人を見られない。
「そう。残念ね。仕事、大変なのね。大丈夫?」
「うん。平気。また電話するから」
「そうね。分かったわ」
電話を終えるとすぐ、染谷さんが「いいの? お母さんでしょう」と、気遣う声をかけた。