彼女は実は男で溺愛で
「ごめんなさい。仕事を口実にしちゃいました」
「口実って、帰りたくない理由でもあるの?」
私は自分の靴の爪先を見つめ、口を開く。
「母は女でひとつで育ててくれて、最近再婚したんです。私が就職するまで待ってくれていたので、早く自立したくて」
「そう」
優しい声色が今はなんだか、落ち着かない。
「義理父はいい人で、だから仲はいいんですよ」
「うん。そっか、少し安心した」
ここまで話さなくてもいいのに、ペラペラと自分の話をして、急に居た堪れなくなる。
「ごめんなさい。こんな、つまらない話」
「いや。そんなことはないよ。史ちゃんを知れて嬉しい」
柔らかな言葉は、私の心に降り積もる。