彼女は実は男で溺愛で
「いえ、あの、だって、いつもご馳走していただいてばかりで」
「それは気にしないで。好きな子に、格好つけたいのが男だから」
さらりと朝から言われる『好きな子』という言葉に、鼓動がおかしくなる。
朝と言っても、もうすぐお昼ではあるけれど。
「その気がないのなら、男を気軽に部屋には呼ばないこと。その気だったのなら、喜んでお呼ばれするよ」
「違っ。あの、染谷さん、今、会社」
会社でどんな電話をしているのかという文句は、彼には届かない。
「大丈夫だよ。誰も出社していないから」
そこから、会社の印刷室で急遽印刷していて、折り畳んだ紙を封筒に入れる作業は退屈だと彼はこぼした。
緊急対応の印刷とはいえ、しっかりとした紙に印刷するらしく、各ショップでの印刷は難しいからと言う彼は、仕事に手は抜かないのだなあと尊敬する。
「史ちゃんがいたら違ったかな」
「お手伝いしたかったです」
力不足な自分を不甲斐なく思う。
もっと彼の力になりたかった。