彼女は実は男で溺愛で
「ありがとう。もう研修も終わるから、今の一言を後悔しないといいな」
明日までで4月も終わる。
意地悪な声色に、私も応戦する。
「染谷さん、仕事は厳しいですものね」
「鬼上司だった?」
「はい。それはそれは」
ううん。嘘だ。
私には、すごく優しくて心配になるくらい。
今日だって、無給だろうと私を呼びつければいいのに。
電話口で、彼は楽しそうに笑っている。
「ね、今日は俺が予約した店に行こう」
「え、でも」
「楽しみはもったいないから、後に取っておくよ。史ちゃんの手料理、いつか食べたいな」
「期待、しないでください。プレッシャーです」
「大丈夫。丸焦げが出てきても、史ちゃんが作った料理なら食べるよ」
「ひどい! そこまでじゃありません」
笑い合って、和やかな雰囲気のまま電話を切った。