彼女は実は男で溺愛で

 掘りごたつのある、お洒落なダイニングバーで私は彼が来るのを待った。

 彼が、同期と飲みに行くと聞いて「誘われたことない」と不平を言ったのを、覚えていてくれたのかもしれない。

 少し遅れた彼は、疲れた顔をしていた。

「休日出勤、お疲れ様でした」

「ごめんね。いつも待たせてしまって」

「いえ、そんな」

 4人掛けテーブルの掘りごたつ。
 彼は私の向かいに座った。

「史ちゃんは会社名の『decipher』が、どういう意味か知っている?」

 突然の質問に、面食らいつつ正直に答える。

「すみません。存じ上げておりません」

「硬いな。面接試験じゃないから、気軽に答えてよ。『decipher』は『解読する』だよ」

 decipherのデザインを自分なりに解読して着こなすとか、そういう意味合いがあるのかな。
 こじつけて意味を考えていると、彼は嘲笑気味に言った。
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