彼女は実は男で溺愛で
「decipher の de を取ると『cipher』になる。『取るに足らない人、もの』という意味だ。面白いなと思ったよ。俺に似合いの呼び名だ」
思わぬ話の流れに、私は強い口調で言った。
「そんな言葉遊び、なんの意味もありません」
「そう?」
「はい。だって、染谷さんは『取るに足らない人』のはずない」
「男にも女にも、なりきれないような奴なのに?」
自虐的に言う彼は、なんだからしくない。
「私、女の人だと思っていた時も、男性と知った後も、染谷さんに憧れています。だって性別関係なく、穏やかで優しくて、それでいて自分の意思をしっかり持っていらっしゃって」
「俺は、そんなに出来た人間じゃないよ」
力なく笑う彼を見つめる。
「どうか、したんですか」