彼女は実は男で溺愛で

「いいです、よ」

「え」

「お付き合い」

「史ちゃん」

 彼が私を呼ぶ声は驚きの中に嬉しそうな声色が混じって、恥ずかしくなる。

「あ、あの。ゆっくり、ですよね。急には恋人らしくなれる自信がなくて」

「うん。いいよ。それで充分だ。泣き落としをしたみたいだけれど、姑息な手を使っても俺は史ちゃんに傍にいてほしい」

 ここまで強く彼に求められるのは、恥ずかしいけれど、嬉しいのは本心だ。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 向かいの席から、手が伸びて私の頬に触れる。

「隣に、座れば良かったかな。抱きしめたいよ」

 ストレートに告げられる想いに、顔が熱くなる。

「食事を、あの、お酒飲みますか? 私は弱いのでソフトドリンクで」

「うん。俺も今日は飲まないでおくよ。酔って失態でも犯したら、取り消しを喰らいそう」

 甘い顔をして言う彼は「飲むと、甘えてしまいそう」と言っていた。
 今の彼に甘えられたら、私は逃げ出したくなりそうだ。
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