彼女は実は男で溺愛で

 イタリアンが中心のメニューを堪能し、お手洗いに立った彼の後ろ姿を見つめる。

 いつもこの隙に、会計を済ませてしまうんだよね。
 甘え過ぎているなあ、なにか返せないのかなあと、ぼんやり考えていると、彼が戻ってきた。

「そろそろ行こうか」

 テーブルに手をかけた彼は、私を覗き込むと軽く唇を重ねた。

 ぶわっと顔を赤くして動けずにいると、彼は笑いながら言う。

「行かないの? それとも、まだキスする?」

 声にならない文句を言おうと彼を見上げると、慈しむような視線と絡んだ。

「ごめん。浮かれているみたいだ」

 ずるいよ。
 甘い顔して、そんなことを言われたら、文句なんて言えない。

 彼の手に引かれ立ち上がると、よろめいた体を彼が抱き留める。

「離したくなくなるよ」

 ギュッと抱きしめられ、胸が苦しくなった。
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