彼女は実は男で溺愛で
「会社では今まで通り『染谷さん』と『市村さん』で、いよう」
悠里さんの提案に私も頷いた。
「いつか、堂々と言える日が来るといいね。ほら、これ鍵」
普通に渡される鍵に、驚いて突き返す。
「そんな重要なもの」
「史ちゃんはいつ来てくれていいし、連休明けまでここに泊まらない?っていう話に乗り気なのは、俺だけ?」
「それは」
口籠ると、彼は驚く内容を口にする。
「連休の1日を俺にちょうだい」
「1日?」
「うん。それで残りの日数を使って、お母さんに顔を見せておいで」
「染谷さん」
「あれ。まだ、悠里でいいのに」
ふんわりと笑う彼に、私は首を振る。
「だって、私は」
「大丈夫。帰ってきたら、俺が甘やかしてあげるから」
目尻を下げた彼は、私の頭を撫でる。