彼女は実は男で溺愛で

 席に戻ると、村岡さんも席にいた。
 隣に座る気まずさを感じながら、椅子を引く。

「ちょうどいいから、少しいいかしら」

 それだけ言った村岡さんは、私の方を見ずに立ち上がった。

 迷いつつ私も立ち上がり、彼女の後に続いた。

 別の会議室に入る村岡さんを確認し、私も入室する。
 村岡さんの座る近くに、腰かけた。

「染谷さんと付き合っているのなら、注意しなさい」

「え」

 混乱していた状況を余計にかき回すような発言をされ、思考が追いつかない。
 村岡さんは尚も続けた。

「西園龍臣。彼は正真正銘のクズよ」

 クズ。

 忘れかけていた、惨事を思い出しそうになり、ギュッと目をつぶった。

 村岡さんは、私が染谷さんと付き合っていると決めつけて話を続ける。

「付き合っていると知られると、興味を持つの。手を出されないように、気をつけることね」

 とんでもない内容に、思わず声が漏れた。

「そんな、わけ」

 龍臣さんがどのような性格かは、全く知らない。

 女性関係は荒れていそうだ。
 そうだとしても、そこまで……。
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