彼女は実は男で溺愛で

「信じてもらわなくてもいいわ」

 つらそうに顔を背ける村岡さんに、胸が痛くなる。
 村岡さんは厳しいけれど、嘘をつく人じゃない。

 そうだとすると、もしかして。

「あの、村岡さんも龍臣さんに、手を出されたんですか」

 村岡さんの発言から、佐竹さんと付き合っていると判明した。

 そしてあまりにも、断定的に告げる村岡さん。
 噂話を聞いて、わざわざ忠告するタイプにも思えない。

 私の質問に、村岡さんは顔を歪ませて言った。

「このことは、彼には言わないで」

「彼って」

「佐竹、さん」

「知らないんですか? 彼」

「ええ。なにも知らないわ。彼と親しくしている頃から、なにかとちょっかいをかけられて。付き合ったと知った途端、佐竹が付き合う女はどんな女か試してみようって」

 声を震わせ、一点を見つめたまま続ける。

「たまたま人が通り掛かったから、助かったの。「興が削がれた」なんて言って。あいつ」

 肩をわななかせ、グッと唇を噛み締める。
 つらくて聞いていられない内容は、想像したくない結末へと向かう。
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