彼女は実は男で溺愛で
「あいつにちょっかいをかけられたり、話しているところは見られていて。嫌がらせされたわ。随分ひどく。こっちはあいつと話したいだなんて、微塵も思っていないのにね」
彼女が、人に心を閉ざしてしまった理由が分かった気がした。
お弁当をご一緒するようになってから、薄々気づいていた。
彼女は地味な格好こそしているけれど、とても綺麗な女性だと。
その美しさを隠したくなる出来事があったのだと思うと、悲しくなる。
「どうして、佐竹さんには知らせないんですか。今さら言う必要はないかもしれないですが、当時は、相談してみても良かったのでは」
「ダメよ。彼はあの人をよく思っているもの。私のせいで関係が悪くなってしまったら、この会社にもいられないかもしれない」
絶句して、頭を左右に力なく振る。
「嫌な会社ね」と、小さく言った村岡さんの声を聞いて、堰を切ったように文句が口をついて出た。
「そんなの、セクハラにパワハラが堂々とまかり通るなんて、おかしいです!」
グッと握り締めた手が、怒りに震える。