彼女は実は男で溺愛で

 村岡さんは、寂しそうとも諦めとも取れるような声色で言う。

「辞めさせられるわけじゃなく、彼なら私の為に会社を辞めてしまいそうで。真っ直ぐな人だから」

 佐竹さんの優しそうな顔つきを思い出し、胸が痛くなる。

 私と話した時の話ぶりからも、彼が龍臣さんをよく思っているというのは伝わってきた。

「心の中では同期を大切に思っているんだと思う」と言っていた佐竹さん。

 龍臣さんの、しでかした行為を知ったら。
 思い詰めた彼は村岡さんとも、別れてしまうかもしれない。

「私のことはいいの。市村さんは気をつけなさい」

 どう返事をしていいのか、分からずにいる私を残し、村岡さんは会議室を出て行った。
< 212 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop