彼女は実は男で溺愛で

 経理課は同じフロアで、通路を挟み隣り合っている。
 仕事上、私は滅多に行く機会がない。

 入り口で様子を伺っていると、声をかけられた。

「お疲れ様」

「お疲れ、様です」

 声をかけて来たのは、佐竹さんだった。

 私の中では、勝手に当事者になっている本人と対面してしまうとは、嘘が突き通せるのか自信がない。

 柚羽がフラれた話は聞いていない顔をして、村岡さんから聞いた話も、全部聞いていない振りをしなければ。

「平林さん? 彼女なら帰ったよ」

「帰った、んですか。そうですか」

「あの、ちょっといいかな」

 通路の方を指し示され、隅に連れられた。

「大丈夫かな。その」

 佐竹さんがなにを心配しているのか、適当な発言は出来ない。

「彼女、入社当時、ひどく女性社員のやっかみを受けていたみたいで」

 ああ、佐竹さんは村岡さんの心配をしているんだ。
 どう答えればいいだろうかと、思案していると、彼は思わぬ考えを告げる。
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