彼女は実は男で溺愛で
彼は私の手を包み込んで、そこにおまじないをかけるように言った。
「俺たちは、平林さんにいい人が現れることを祈っておこう」
小さく頷くと、彼は立ち上がり「夕食はどうしようか」とキッチンへと歩み出そうとしている。
私は、彼の背中に向かって抱きついた。
「史ちゃん?」
「私も、悠里さんを好きになってよかったです」
体に回しきれていない私の手に、彼は手を重ねる。
「そう? ありがとう」
彼の優しい声は、胸にじんわりと広がっていく。
「さあ。丸焦げにならないように、夕食を作ろうか」
明るく言った彼に、私は笑いながら「悠里さんを丸焦げにさせますよ」と軽口をたたく。
笑い合って、戯れ合って、これが彼の言う『穏やかに付き合う』なのかなあと幸せを感じた。