彼女は実は男で溺愛で

 彼は私の手を包み込んで、そこにおまじないをかけるように言った。

「俺たちは、平林さんにいい人が現れることを祈っておこう」

 小さく頷くと、彼は立ち上がり「夕食はどうしようか」とキッチンへと歩み出そうとしている。

 私は、彼の背中に向かって抱きついた。

「史ちゃん?」

「私も、悠里さんを好きになってよかったです」

 体に回しきれていない私の手に、彼は手を重ねる。

「そう? ありがとう」

 彼の優しい声は、胸にじんわりと広がっていく。

「さあ。丸焦げにならないように、夕食を作ろうか」

 明るく言った彼に、私は笑いながら「悠里さんを丸焦げにさせますよ」と軽口をたたく。

 笑い合って、戯れ合って、これが彼の言う『穏やかに付き合う』なのかなあと幸せを感じた。
< 225 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop