彼女は実は男で溺愛で
悩みつつ、柚羽のあとをついて歩くだけの私は立ち止まって初めて、どこに来ていたのかに気付いた。
「えっ。柚羽?」
私の問いかけに、彼女は口角をニッと上げ、扉をノックした。
中からは返事がなく、柚羽は躊躇なく扉を開けた。
柚羽が開けたのは会議室の扉で、中にいたのは村岡さんだ。
彼女はこちらに振り向くことはなかったけれど、食べていた箸の動きを止めた。
その彼女に、柚羽は責めるような口調で言った。
「村岡さん。どうして「私が好きな人できたかも」って言った時に、「私が佐竹さんと付き合っているから」って言ってくれなかったんですか?」
それは、村岡さんが前に龍臣さんの関係でつらい思いをしていて、言い出せなかったんだよ。
そう言って代わりに伝えてあげたくなるくらい、村岡さんはなにも言わない。
「私、いつも間違えちゃうんです。友達と同じ人を好きになっちゃって」
ゆっくりと村岡さんは柚羽の方を見て、口を開いた。
「あなたは、その惚れっぽい性格をどうにかしたら?」
これには目を見開いて「村岡さん! ストレート過ぎです!」と注意したくなった。