彼女は実は男で溺愛で

「いいじゃない。想われている感じ」

「そう? 彼もいい大人だもの。うかうかしていると、掻っ攫われるかもよ」

 柚羽は頬をむくれさせ「史乃を不安にさせないでくださいよ〜」と村岡さんに文句を言っている。

「自分だって染谷くん、いいって思っていたくせに」

 村岡さんの指摘にドキリとする。
 すると、柚羽は「ないない」と大袈裟な手振りで否定した。

「私、友達の好きな人は、好きにならないって決めているので」

「そこで理性が働くようじゃ、大して好きじゃないのよ。あなたが「蒼生を諦められないから」って横恋慕されたって、私は文句言えないもの」

「蒼生っていうのは」

「佐竹さんの名前」

 昨日の私と染谷さんのように、名前の確認をしてから、柚羽は質問をした。

「奪っても、いいんですか?」

「それを決めるのは、私でもあなたでもないわ」

 黙ってしまった柚羽に、私はヤキモキする。

 村岡さんの意見は正論かもしれない。
 けれど、柚羽が「奪ってみせます」と言ったらどうするのだろうとドキドキする。
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