彼女は実は男で溺愛で

 午後の仕事が始まると、回覧が回ってきた。
 それは、社内通達された人事。

 5月付で異動した社員の情報。
 その中に『志賀恵梨香』の名前があった。

 同じ課内なのに、送別会もなく、突然姿を消すようにいなくなった彼女。
 誰も、その話題に触れない。

 本当にこれでよかったのかな。

 胸の奥に小さなわだかまりを感じつつも、私は回覧の自分の名前の欄にサインして、次の人に回した。

 仕事を終えると明日から連休という解放感に浸りながら、アパートへと帰る。
 お言葉に甘え、今日も染谷さん、というか、悠里さん家にはお泊まりする予定。

 けれど、向かったのは自分のアパート。

 彼から『夕食に間に合わないかもしれないから、食事は別々で』と連絡を受けたため、一旦自分のアパートに戻ろうと思ったのだ。

 冷蔵庫の整理をし、着替えも新たに準備する。
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