彼女は実は男で溺愛で

「なにを考えているの?」

 私を抱き寄せる彼には、もちろん女性の悠里さんのような胸はなくて。
 彼のシャツの向こう側にある肌が脳裏にチラついて、見えていないはずなのに、目の前がチカチカする。

「このまま寝てしまおうか、シーツはまた洗えばいい」

「え。もしかして、そ、そうですよね。昨日、汚して」

 夢見心地でふわふわしていたのは私だけで、急に現実に引き戻された気がする。
 それも、とても恥ずかしい現実。

「いや、まあ。うん。現実って、生々しくていやらしいものだよね」

 ものすごく恥ずかしくなって、そして不安になる。

「悠里さんは、嫌に、なったりしないんですか?」

 悩ましい視線を寄越した彼は「史ちゃんといると、俺って男だよなあって再確認するよ」と、ぼやいた。

「えっ。それは」

「嫌になったりしないから」

「そう、ですか」

 ほっとするのも束の間、彼はさらりと告げる。

「それどころか欲情して、困る」

 体を固くする私に、彼は苦笑する。

「襲ったりしないから、安心して。また、ゆっくり肌を重ねればいい。今日はもう眠ろう」
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