彼女は実は男で溺愛で
浮世離れした世界

 入社して数日。
 私は、途方に暮れていた。

『decipher』はアパレル企業なだけあって、社員自体も華やかな人が多い。

 私は意を決し、その華やかな人に声をかけた。

「あの、来客者名簿の入力方法を教わりたいのですが」

「ああ、それ、村岡さんに聞いて」

「は、はい」

 一蹴されて撃沈。
 全てにおいて門前払いで、仲良くなれる気配は感じられない。

 教育担当は村岡さんだ。
 村岡さんは地味目の風貌で、必要最小限の話しかしないため、取っつきにくい。

 だから他の人ともコミニュケーションを図り、仲良くなれたらいいなという淡い期待はすぐに崩れ去った。

 私は、こっち側の人間なんだ。

< 29 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop