彼女は実は男で溺愛で
けれど。
彼女が私のところに歩み寄ってくるのを、微動だにできず、立ち尽くす。
「どうしたの。ぼんやりして」
楽しそうな彼女を上手く見られない。
美しいのに、完全に女性なのに、彼女が男性の悠里さんに見えた。
手は大きくてとても男性的だし、掛けられた声に男性の色気を感じてしまう。
どうか、してしまったんだ。
そう思うのに、悠里さんへのドキドキは、男性の悠里さんへのものだった。
それでもその思いを隠し、女の子同士の買い物を楽しむ。
decipher のショップにも行き、似合う服を選び合った。
decipher のショップを出ると、悠里さんはこっそりと私に耳打ちをした。
「さっきの店員さん、男の時は愛想悪いのに、私には優しかったわね」
裏話に「内緒よ」と指を口元に当て、悠里さんはウィンクをする。
楽しいのに、彼に近づかれ心臓が騒がしくなり、彼から香る女性的な香りに胸を痛くさせる。
『悠里さん』に悠里さんを取られたような、そんな気持ち。
馬鹿みたい。
自分が、悠里さんを遠ざけたくせに。