彼女は実は男で溺愛で

 今の悠里さんといれば、自分だけ彼が男性だと知っていて、これこそ自分が望んだ姿だ。
 それなのに、どうしてか胸が苦しかった。

 夕食も一緒に食べ、アパートまで送り届けられる。

「じゃまた遊びましょうね」

 悠里さんは女性として接して、そしてさよならをした。
 
 隣を歩いていた悠里さんはとても近いのに、手が触れても手を繋いだりしない。
 見つめ合っても、ニッコリ微笑むだけで、キスしたりしない。

 週末だからって、泊まったりしない。

 寂しさに押し潰されそうになりながら、部屋でうずくまった。

 きっと彼にとってみれば、いつもの生活に戻っただけ。
 甘かった恋人同士の時間も、もしかしたら彼は無理をしていたのかもしれない。

 心に引っかかっていた1点が、無理していたからなんだ、との思いを強くさせた。
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