彼女は実は男で溺愛で

 エレベーターを降り、ボディメイク室へ続く通路を歩いていると悠里さんを見つける。
 誰か、男性と話しているようだ。

 その男性は、かなりの高身長だ。
 悠里さん自体がモデル体型なのに、その悠里さんよりもかなり高く、威圧感さえ感じる。

 優に180センチは超えていそうな大柄な上に、顎ひげを蓄えた男性。
 離れた場所に立っているのに、近づくのをためらうオーラを放っている。

 2人は並んでいると美人と野獣という雰囲気で、とても絵になっていた。

 話し終えたのか、あろうことか男性は私の方へ歩いてくる。
 エレベーターは私の後方にあるのだから、当たり前の行動なのに、足が竦んで動けない。

 幸い隅に立っていた私の脇を、男性は通って行った。
 通り抜ける際にチラリと視線を向けられ、それだけで縮み上がって生きた心地がしなかった。

 まさに、蛇に睨まれた蛙だ。

 三白眼の目つきは鋭く、一瞥しただけで人を殺せると思う。

 あ、そしたら今の私は即死だ。
 そんな間抜けな感想を浮かべ、心の中で苦笑する。
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