彼女は実は男で溺愛で
「あ、あの。でも」
私は思い出さなければいいのに、思い出した話を彼に伝える。
「西園グループの後継者候補と呼ばれる人物のための親睦会」
「うん。そうなんだ。あれは、俺のためでもある。ごめんね。嫌な思いをさせて」
ああ、やっぱり彼は違う世界の人なんだ。
そう思って、私は箸を置いた。
「今まで、ありがとうございました。素敵な夢を見させてもらえました」
「史ちゃん?」
悠里さんは優しくて。
けれど、世界が違う人。
「私には割り切って愛人になる、という選択は無理です」
すぐ間近で、悠里さんが他の人を愛しているところを、見ていられる自信がない。
「当たり前だよ」
「拗らせていたという女性への思いも、解消されたと思いますし。素敵な女性と結婚されてくださいね」
私は深々と頭を下げ、それから立ち上がろうとした。
その肩に手を置かれる。
「勝手に話を決めつけないで。俺の話を聞いていた? 俺は西園が嫌で、染谷を名乗っている。だから、俺が西園だと話したくなかった」
苦々しい顔をさせた、悠里さんを見るのはつらい。