彼女は実は男で溺愛で
ため息を吐いた悠里さんが、深く椅子に座り直して話し始めた。
それはいつもの穏やかで優しい声だった。
「史ちゃんは勘違いしているね。俺は西園グループの恩恵は、受けていないよ。あ、いや。関連会社に勤めている以上、甘えてはいるかもしれないが」
悠里さんは寂しそうな顔をさせて、私に言った。
「こっちに来て、抱きしめさせてくれないかな。史ちゃんがどこかに行ってしまいそうで、不安になる」
私が動けずにいると、彼の方が私の隣に移動して座った。
本当に嫌なら、彼から距離を取ればいい。
けれど、私も彼がまだ好きで、抱きしめようとする彼から逃げられなかった。
ゆっくりと、体に腕を回す悠里さんが「大好きだよ」と優しく言った。
彼の温もりに触れ、勝手に涙が溢れ出す。
「ごめんね。俺は史ちゃんを泣かしてばかりだ」
「うっうっ」と声にならない声を漏らし、彼の胸に顔を埋める。
「どうやら、俺は誕生日を過ごすのには、向いていないらしい」
ぼやく悠里さんに、ハッとして「ごめ、んなさい」と、かろうじて謝りの言葉を漏らす。