彼女は実は男で溺愛で
承諾する前に、彼は勝手に私の目の前の椅子を引いた。
考え事をしたくて、ひとりでカフェに来たのに。
有無を言わせない彼の傲慢な態度は、やっぱり好きになれない。
悠里さんは、この人を過大評価していると思う。
「猿とは、どうだ」
「猿っ。元気ですよ」
「フハッ。あいつに猿はお似合いだな」
笑うと表情が柔らかくなって、恐ろしいイメージが緩和される。
なんだ。この人、こんな表情もできるんだ。
人目のあるカフェで、なにかされる心配もない。
私はこの招かれざる客と、話す覚悟を決めた。
「どうして、そんなに悠里さんを気にされているんですか」
「別に。気にしてなどいない」
嘘ばっかり。
気にしているから、私を通して偵察しているくせに。
「あいつが珍しく人に執着したから、どんな奴かと興味を持ったまでだ」
悠里さんは、人に執着しないんだ。
そこまで考えて、時間差で驚く。
「えっ。執着って、私にですか?」
「他に誰がいる」
あなたにも執着していますよ。とは、なんとなく悠里さんの名誉のために、言わないでおいた。