彼女は実は男で溺愛で

「まあ、この部分だけの修理なら、そんなにかからないと思うよ。でも、その間、ないのは困るでしょう? あと1着しかないよね」

「修理はどのくらいかかりますか」

「一週間かからないかなあ」

 一週間も洗わずに同じ下着は、さすがに無理がある。

「デート用で買った普通のタイプのブラと、交互で乗り切るしかないね」

「はい」

 ロングブラに慣れて、普通のブラは心許ないけれど、そうも言っていられない。

「悠里の金銭感覚の違いは、大目に見てやってよ。悠里にとって、一世一代の恋なんだから、浮かれているのよ」

 浮かれて、か。

 浮かれ方が庶民的だったら、素直に喜べたのになあと、贅沢な悩みを思い浮かべる。

「それに」

「それに?」

「悠里が仕事面で敏腕だって言われているのは、知っているでしょう?」

「え、ええ。はい」

「悠里がほしいと思って、逃したものなんてないんじゃないかな」

 なんとなく恐ろしくなっていると「なーんてね」と、里穂さんは明るく言った。
< 374 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop