彼女は実は男で溺愛で
自分のアパートに帰ると、アパートの前に立っている人影に気付き歩みを止める。
「悠里、さん」
「やっぱり。こっちに帰るだろうなあと思って」
「連絡、してくださればいいのに」
彼の元に駆け寄ると、悠里さんは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「うん。待っている間も、なんだか楽しかったから」
「え」
「いつ帰ってくるかなあとか、考えて」
そこまで言って、彼は口元を片手で覆って罰の悪そうな顔をした。
「思考回路が、中学生並みだね」
これには笑ってしまって、悠里さんの表情を曇らせる。
「笑うなんて、ひどいなあ」
「だって。悠里さんはいい大人で。すごく爽やかで素敵な」
「うん。素敵な?」
嬉しそうにしている彼に、口を噤む。
「もっと言ってくれていいのに」