彼女は実は男で溺愛で

 彼は慈しむように頬に両手を当て、おでこを擦り付けた。

「ね、俺のアパートに行かない? ここはアウェイです」

「でも平日ですし」

「うん」

 彼はただ頷いただけ。
 この「うん」に、そうだね。平日だからお泊まりは無理だよね、の同意が含まれているとは思えない。

「悠里さんって、諦めるって言葉が辞書になかったりします?」

 何気なく聞いた言葉に、思っていなかった答えが返ってくる。

「いや、諦めて生きてきたよ」

 寂しそうな表情の彼に切なくなって、彼に抱きついた。

「ごめんなさい」

「どうして謝るの」

「だって」

 彼は恵まれていて、何不自由なく生きてきたと『西園』だったと聞き、勝手に思ってしまった自分が恥ずかしい。

 彼がつらい思いをして来た話も、努力している姿も知っていたのに。

「大丈夫。史ちゃんは諦めないから」

 そう言った彼の胸に、顔を埋めた。
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