彼女は実は男で溺愛で

 深く彼と重なり合い、甘い余韻が残る中で彼に抱きしめられ幸せを感じる。
 素肌のまま寄り添っている時間が気恥ずかしくもあり、愛おしくもあった。

 慈しむように私の髪に手を差し入れ、撫でている悠里さんに、私は呟くように言った。

「運命、なんでしょうか」

「え」

 私の浮かれた単語に、悠里さんは目を丸くする。

「だって、前に話してくださった時は、悠里さんが『西園悠里』だなんて言われるから、そっちばかりに驚いて」

 未だに、出来れば信じたくない。
 彼が『西園』だとは。

 だから、私は2人の出会いがどれだけ素敵で、誰にも邪魔できないものなんだと、言いたかったのかもしれない。

 だから、大丈夫なのだと。

「だって、アルバイトしていた悠里さんと、同じ会社に入って、たまたま部下になるなんて、すごくないですか?」

 私が鼻息荒く考えを言うと、悠里さんはいつもの穏やかな顔で微笑んだ。

「俺、人事に口を出せるんだよ」

「え」

 そもそも decipher に、私が受かったのは悠里さんのお陰だというの?
 それは、やっぱり彼が『西園』だから。

「期待を裏切って、ごめんね」

 彼は目を伏せて言った。
 その顔は寂しそうに見えた。
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