彼女は実は男で溺愛で

「お友達から、お願いします!」

 頭を下げ、片手を差し出され、口をあんぐりと開ける。

「あ、あの。私、一応女です、よ」

 がばっと顔を上げた女性は、慌てふためいて両手を振るう。

「緊張して間違えました。お友達になってくださいって言いたくて」

 一瞬聞き間違いかと思える『お友達になってください』
 けれど、目の前の女性は真剣そのものだ。

 じわじわと本当なのだと実感して、足先から体中に喜びが込み上げる。

「こちらこそ、お願いします!」

 私は力強く彼女の手を握ると、驚いた顔の彼女と目があって2人して笑い合った。

 残りの昼休み、総務課の打ち合わせテーブルに彼女と座り、お互いの自己紹介をする。

「私、平林柚羽(ひらばやしゆずは)。短大卒の新入社員です」

「ええ! じゃ、同じ歳。あ、私は市村史乃です」

「うん。入社式で、市村さん見かけてて、実は目をつけていたんだ」

 目をつけていたという言い回しに、穏やかじゃない雰囲気を感じる。

「ど、どういう意味で」

 思わず声が吃って、唾を飲み込んだ。
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