彼女は実は男で溺愛で

 声をかけられた彼女が、総務課の入り口の方へ歩いて行くと、耳を塞いでいたい声が聞こえてくる。

「女王様気分で何様かしら」
「調子に乗り過ぎ」
「たいして綺麗でもないくせに」

 推測すると、志賀さんはモデルの方の仕事で呼ばれたようで、他の女性社員は気に入らないようだ。

 志賀さんの耳に届いているのか、いないのか。
 やっかみさえも、彼女なら嬉しいのかもしれない。

 志賀さんがカウンターまで歩く様は優雅で、口の端に笑みを浮かべている。

「蝶選びの件で少し」

 呼び出した男性が口にした『蝶選び』とは、なんだろうか。
 ただ分かるのは、私には関係ない華やかな世界という事実。

 どこかへ歩いていく彼女たちの後ろ姿をぼんやりと見つめた後、私は再び仕事に集中した。
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