彼女は実は男で溺愛で
フィッティングルームに行くと、悠里さんは服を何着か出して選んでいた。
決意が揺るがないうちに、悠里さんの後ろ姿に向かって聞く。
「悠里さんの恋人は、西園さんですか」
「え?」
目が点とはこのことか、と思える表情で振り返った悠里さんが「西園ってどの?」と返した。
そうか。西園だけでは、誰か分からない。
この会社には西園グループ関連の人が多く、西園の姓の人も必然的に多い。
柚羽に教えてもらってから、注意して見てみれば、職場にも『西園』という名字の人がたくさんいて、その人は下の名前で呼ばれていた。
「あの、前に見かけた、経営管理本部の本部長。西園龍臣さん」
名前を聞いた悠里さんは目を丸くして、それから吹き出した。
「あはは。ないない」
「だって、親しそうでしたし」
食い下がって訴えると、悠里さんは眉尻を下げて言った。
「彼は私が気に入らないのよ」
憂いに帯びた眼差しを見て、胸が苦しくなる。
悠里さんは、龍臣さんを……。
私の想像が、確信へと変わる言葉を悠里さんは呟く。
「私は彼に、憧れに似た気持ちは抱いているんだけどね」