彼女は実は男で溺愛で
どうやって声をかけようかと逡巡していると、悠里さんは明るく言う。
「ヤダな。湿っぽくなっちゃった。史ちゃんはいないの? 恋人」
憧れていた同僚との恋話のはずなのに、悠里さんの切ない恋模様を知り、心は弾まない。
「私はまだ、仕事に慣れるのに手一杯で。学生時代は女子校でしたし」
「そう。いい人が見つかるといいわね」
いい人が。
そう言われ、もう一人の人物を思い出す。
「そうだ! 販売促進課の染谷さんは、ご存じですか?」
まさか、再び目を点にした悠里さんを見るとは思わなかった。
「どうして?」
どこか動揺しているような悠里さんを見て、もしかして染谷さんが本命? と、心が浮き足立つ。
絶対に絶対に、染谷さんの方が、悠里さんに似合っている。はず。
見たこともない彼に期待を込めて、悠里さんに説明する。