彼女は実は男で溺愛で

 生まれてこのかた、恋人がいたことはない。
 けれど、たった今、触れてしまったものが、女性にはないものだという事実は、私にも分かってしまった。

 気まずそうに顔を背け、口元を片手で覆っている悠里さんを見て、急にある一言を思い出した。

 そして、慌てて頭を下げる。

「ご、ごめんなさい!」

「え」

 悠里さんが呆気に取られた顔をしていても、私は構わず続けた。

「前に襲われかけたって。それは勝手に男性に襲われたんだって思っていたんですけれど、それって女性だったんじゃ」

「それが?」

 ああ、やっぱり。
 そう思って、続ける。

「嫌な思いを、蘇らせたんじゃないですか?」

 目を見開いた悠里さんが、カタコトに言葉を発する。

「第一声が、そこ?」

 悠里さんは、膝を立てている自身の脚に顔を埋れさせ、打ち明ける。

「襲われかけたのは、男も女も」

「え」

 衝撃の事実に声を失う。
< 76 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop