彼女は実は男で溺愛で

「急に人手が足りなくなり、困っていてね。課をまたいでお願いするのは、申し訳ないのだけれど」

 そこには、耳にかかるかかからないか程度の髪型が爽やかな、文字通りの好青年が立っていた。

 目を丸くし、社員証を確認する。

『販売促進部 販売促進課:染谷悠里』

「ゆ、ゆ、由々しき問題です」

 思わず「悠里さん!」と呼んでしまいそうになり、苦し紛れに誤魔化した。

「ふっ。そうか。すまないね。まだ会社に慣れないうちから他部署の業務を任せてしまって」

 穏やかに微笑むところも、悠里さんに間違いない。

 ただ、明るい髪色のロングは、自然な黒髪のショートカットだし、服装もスーツ。
 もちろん男性のもので、ネクタイもしている。

 夢でも見ているのかと思っていても、悠里さん改め、染谷さんは私に指示を出す。

「さっそくで悪いのだけれど、今後の仕事について打ち合わせてもいいかな?」

 狐につままれたような気持ちで、彼の指定する会議室に荷物を持って集合することになった。
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