彼女は実は男で溺愛で


 自席にパソコンやメモ帳を取りに帰ると、村岡さんが呟くように言った。

「染谷さん。販売促進課で、かなり仕事ができるって評判だから、足を引っ張らないようにね」

「うっ。はい。心してかかります」

 必要以上のプレッシャーをかけられ、息が詰まりそうになりながら会議室のドアをノックする。

「はい」

 返事を聞いてドアを開け、中へと入った。

「突然で申し訳なかったね。いつも市村さんの資料が正確で助かっていたものだから、総務課の課長に無理を言ったのだよ」

「いえ。お力になれていたのでしたら、光栄です」

「そう固くならずに。座って。仕事の指示の出し方とか説明するから」

 彼が指し示す席に腰を下ろす。
 ふわっと香ったのは、男性の香り。

 やっぱり私は夢を見ているの?
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